川底の怪・引地川新事情

エコ日記

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●引地川親水公園での新しい気付き 

引地川 常日頃より大庭地区の引地川をメインの観察フィールドにしている私が、うかつにも最近気か付いたことがあります。普段の観察で、魚やエビ、カニ、昆虫などにばかり目を向けていたがために、川に入るたびに見ていた目の前にあるものに気が付かなかったのです。まさに「樹を見て森を見ず」(私の場合は「魚を見て川を見ず」でした)の状態だったのです。

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私が見えているのに見えていなかったものとは、川底に散らばる貝殻の存在でした。大庭地区の引地川の川底には、無数の貝殻が散らばっているのです。護岸の上からでも貝の存在が確認できるほどの多さなのです。また、川岸近くの浅瀬に堆積した砂はといえば、砕けた貝殻の混じる白っぽい砂なのです。そして、これらの貝をよく見ると、そのほとんどが海にすむ貝の死骸なのです。

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護岸の上から浅い川底を覗き込んでまず目にするのは「イタヤガイ」の貝殻です。この貝の存在には、何年も前から気が付いていましたが、イタヤガイの貝殻は、一見するとホタテの貝殻に似ているため、誰かが川岸でバーベキューをやって、不心得にもそのまま川に捨てたのではないか、などと的外れな推測をしていたのでした。

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●境川遊水地公園での貝化石観察

境川遊水地公園の貝化石 一方で私は、境川遊水地公園において、教育文化センターが行った研修講座や神奈川県立生命の星地球博物館が行った観察会などへ、たびたび飛び入りで参加させていただいており、なおかつ、自らも市民向けの観察会を企画運営するなど、少なくとも6~7回、足掛け5年にわたり、貝化石の観察を行ってきました。この体験は、12万5千年前の下末吉海進期の温暖期に、現在の海岸線から遠く離れた湘南台付近の境川の川底が、実は水深10m以上の海の底だったという事実を体感し、まさに今、12万5千年前の海底に立っているのだという何とも言えない高揚感を湧き立たせてくれるものだったのです。この時の私は、その高揚感に動かされ、目の前の地面に眠る貝化石に夢中になりました。その時の私にとって、足元にあるのは大昔の宝物でした。

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今年の3月には、藤沢市点字図書館からの依頼で、視覚障がい者の方向けの講座を依頼され、藤沢の大地の成り立ちを感じた頂く教材として、境川遊水地で産出された貝化石を使用させていただいたりもしました。 私にとって、この時期までは、下末吉海進期の遺物は、境川遊水地公園とは切り離して考えられない、限られた場所での事柄に過ぎなかったのです。

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●神奈川県立生命の星地球博物館にて

友人とともに、神奈川県立生命の星地球博物館に出かけた時のことです。3階の神奈川県をテーマにした展示室へ出かけてはっとしました。藤沢市で発掘されたナウマンゾウの化石の近くに、県内各地で発掘された貝化石の展示コーナーを見つけたのです。私はこの中のある化石に釘付けにされました。それは、引地川の山田橋(石川堰下流の橋)下流の河床から採取された下末吉期の貝化石のブロックだったのです。それは、境川遊水地で見慣れた貝化石と見た目には変わらないものでした。 石川堰より下流の引地川では、少なくとも20年以上前から、治水を目的とした、河床の掘り下げ工事が続けられてきました。この一連の工事により、引地川の河床は、工事以前と比較して、数メートルは深くなっているのです。博物館で見た化石は、この工事の際に掘り出されたものでした。つまり、現在の石川付近の引地川の川底は、下末吉海進当時の地層にまで到達し、あるいは突き抜けた深さにまで達していると考えられるのです。このことから推測すると、石川より下流の大庭地区の川底で見られる貝殻は、工事で露出し、流下した貝化石ではないかということになります。

●川底の貝・引地川新事情

今年の7月、大庭地区の引地川で、大和市の方々と川の生きものの調査を行った際、私が夢中になったのは、川底の貝化石の採集でした。イタヤガイの他には、サトウガイ、バイ、キサゴ、ツメタガイなどが多く見つかりましたが、どれも長年にわたり流水に洗われ続けたためか、欠けていたり、表面が丸みを帯びていたりするなど、境川遊水地のものと比較すると、劣化が著しい事が解りました。また、貝殻の薄いものはすでに粉々になっており、砂とともに浅瀬に堆積していることも解ってきました。境川では割合としてあまり多くは見つからない、イタヤガイを多く見かけるのは、殻の耐久性が高く、割れずに残っているためかと推測されます。 タイワンシラトリとブラウンイシカケガイも確認できました。タイワンシラトリは日本では温暖期のみに生息していたとされる南方系の貝で、下末吉海進期の地層に多く含まれる貝です。また、ブラウンイシカケガイは化石種であり、すでに絶滅した貝です。いずれも、境川遊水地公園で確認されている種です。 ところで、あらためて下末吉海進期の古地理図を見ると、平塚、茅ケ崎、寒川はほぼ海の底であり、片瀬丘陵と江ノ島の一部を除く藤沢全域から、大和、綾瀬、海老名、厚木、伊勢原付近まで、海が広がっています。つまり、藤沢市内の大部分では、北部地域の遠藤や長後でさえ、どこを掘っても下末吉海進期の痕跡を掘り当てることができるわけです。まさに、コロンブスの卵、目から鱗の“発見”でした。 皆さんの目の前にも、見ているのに見えていないものがあるのかもしれませんよ。 .

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