エネルギー中毒と2%の冷房湘南・鎌倉 住まいの学校講座「住まいの温熱環境とエネルギー」
エコ日記冷房で使われるエネルギーは家庭で消費されるエネルギー全体の2%。(※註)この数字、私たちが普段目にしている情報と何かギャップがあるように感じませんか?… 6月24日、鵠沼橘市民の家[旧後藤医院(国 登録有形文化財)]でSHONAN・デザインシステムが主催する湘南・鎌倉 住まいの学校「第二回:住まいの温熱環境とエネルギー」という講座が開催されました。講師に一級建築士の山田貴宏さん(ビオフォルム環境デザイン室代表)をお呼びした、断熱材や木造住宅のこと、家庭で消費されているエネルギーはどんなものが多いのか、空調や室内温度をどのようにして私たちは感じているのかなど、様々な視点からこれからの住まいのあり方を提起する講座でした。必要最低限の設備で暮らす家の事例紹介など、私たちが今直面している“エネルギー問題”の一つの解決策に繋がる内容でした。 (註:家庭エネルギー統計年報2005年版 全国平均の値)
講師の山田貴宏さん(以後、山田さん)は、国産材と自然素材を使って地産地消で伝統的な木の家造りを中心とした建築・環境設計を行っている建築家。同内容の建築を進めているビオフォルム環境デザイン室を2005年に設立しています。講座には、子育て中の家族からご年配の方まで老若男女、10数名の参加者が集まっていました。山田さんの自己紹介が終わるとまず、住まいのエネルギーについてお話がありました。
●石油がとれなくなる前に
「現在、世界の石油生産がピークに達しています。いずれとれなくなる石油から違う資源に変化していかなければならない」と話す山田さん。石油貯蔵量や、関連した温暖化への影響には様々な論がありますが、ただ一つ確かなことは、石油はいずれなくなる「限りある資源」ということです。そこで石油依存を緩やかな角度で落としていく「優雅な下降」が必要となります。そこで私たちはどれだけのエネルギーを消費しているのか山田さんから説明がありました。
●エネルギー中毒な私たち
住宅のエネルギー消費量は、世帯数の増加、電化製品の増加などにより年々増加中で1990年の約1.5倍となっているそうです。内訳は、電気(照明や家電など)39%、給湯33%、暖房26%、冷房2%です。(※註:前出)びっくりしたのが「冷房2%」という数字です。省エネと言うと夏の冷房のイメージが多いですが、実は冬の暖房や家電の多さが一番の問題点のようです。便利な生活を追求した結果、私たちは日常で多くのエネルギーを消費しているのです。
●パッシブデザイン
そこで、パッシブデザインという考えがあります。パッシブデザインとは建築自体のデザインにより建物内外に生じる熱や空気や光等の流れを制御し、暖房効果、冷房効果、照明効果などを積極的に得ることを意図した設計趣旨のことです。建築のデザインによりエネルギーをできるだけ使用しないで暮らす、安直に言うと(?)エコな暮らし、またはサスティナブルで経済的な家です。パッシブデザインはその土地に合った設計であり、既存の規格を押しつけた箱売りの建物とは違います。日本に合った日本の住宅とは…考えて行くと、昔ながらの日本家屋が経済的で暮らしやすい家ということに講座の内容は進んでいきました。
●日本文化の延長線上の暮らし
もちろんパッシブデザインは懐古主義ではありません。断熱材など現在の技術を従来の日本家屋に足すと、夏は涼しく、冬を温かい家になると山田さんは事例を上げながら説明してくれました。また、庭や壁面、屋根に緑をつくることによって夏には涼しい風が入ったりと、建物だけではなく周辺環境も大切だそうです。材料は、その土地で育った自然素材を使うそうです。これは輸送費を減らすことに繋がり、また地域の材木屋さんとのコミュニケーションも発生し、建築的には風土にあった材料になるそうです。地産地消な考えで一石二鳥ならぬ、三鳥、四鳥にもなりますね。
●エアコンがなくても快適
事例紹介の山田さんも住んでいるパッシブデザインの「藤野プロジェクト~里山長屋暮らし」では、冬は太陽熱を利用し、夏はエアコン無しで生活できるそうです。他にも雨水を利用したり、家庭菜園を営んだりと循環可能なシステムが盛りだくさんの住まいとなっていました。「デザイン」の語源は「意図や意思である」と、とある大学教授が以前話していたのを思い出しました。自然を捉え、自然と対話した住まいとなっていました。 3.11以降、少しずつ環境やエネルギーに対しての考えが変わってきた日本。今まで公になれなかった情報や技術、考えを目にでき、一人一人が選択できる時代になってきたと思います。環境に負荷がない住宅とは、実は私たちが創りだしてきた日本の住宅でした。住宅を通して、これから私たちが進むべき環境への感覚を感じることができた講座でした。
関連リンク: SHONAN・デザインシステム ビオフォルム環境デザイン室